Share

第12話 「あなたの隣の男の正体を知っています」

last update publish date: 2026-08-24 12:06:27

 

文化祭実行委員の仕事というのは、もっと華やかなものだと思っていたのだけれど、実際に始まってみれば、クラス全員から好き勝手に出される企画案を整理し、予算を計算し、担任から「消防法に引っかかる」「食品を扱うなら申請が必要」「廊下にはみ出す装飾は禁止」と現実的な駄目出しを食らい、そのたびに教室へ戻って話し合いをやり直すという、文化祭当日の楽しそうな雰囲気からは想像もつかないほど地味で面倒な仕事だった。

「メイド喫茶は?」

「去年隣のクラスがやったから被る」

「お化け屋敷!」

「体育館側の教室じゃないから暗くできないって先生言ってたじゃん」

「じゃあ脱出ゲーム」

「誰が問題作るの?」

「篠宮」

突然名前を振られた篠宮君が、教壇の横で企画案を書き取っていた手を止める。

「なぜ俺なんだ」

「頭いいか

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 冴えない転校生を放っておけなかっただけなのに、正体は世界的財閥の御曹司でした   第74話 「三年生から九条蓮司として通います」三者面談で御曹司が母親の前でも、自分の進路を自分の言葉で決めました

    第74話 「三年生から九条蓮司として通います」三者面談で御曹司が母親の前でも、自分の進路を自分の言葉で決めました 相沢君のサッカーの試合を見に行った翌週、教室の後ろに新しい予定表が貼り出された。 十一月三者面談。 生徒一人につき二十分。 三年次の類型選択と進路希望を中心に、本人、保護者、担任の三人で話をするらしい。「二十分って短くない?」 予定表を見ながら美咲が言うと、佐伯先生は教卓からこちらを見た。「予定通り二十分で終わる家庭ばかりなら、私も楽なんだけどな」「延びるんですか?」「去年、親子喧嘩が始まって五十分使った家がある」「怖っ」「だからお前ら、できれば家で話すことは家で話してから来てくれ。『お母さん、私その大学行かないって言ったでしょ』『そんな話聞いてません』を面談室で始めるな」 教室に笑いが起きた。「先生、経験積んでますね」 相沢君が言う。「お前らより長く高校生を見てるからな。それから篠宮」「はい」 後ろの席から返事がする。「お前は面談前に一度、放課後残れ」 教室の何人かが振り返った。 私は何となく理由を察した。「何で篠宮だけ?」 相沢君が素直に聞く。「事情がある」「進路?」「それも含めてだ」 佐伯先生はそれ以上説明しなかった。 文化祭の時に「篠宮蓮が本名ではない」ことまではクラス全員へ知られているので、誰かが特別扱いだと騒ぐこともなかった。 ただ、本人は少し硬い顔をしている。 ホームルームが終わると、いつものように私の席へ来た。「高梨

  • 冴えない転校生を放っておけなかっただけなのに、正体は世界的財閥の御曹司でした   第73話 「高梨が相沢の名前を呼んで応援してる」御曹司、友達の試合で初めて彼女への嫉妬と友情を同時に抱えました

    第73話 「高梨が相沢の名前を呼んで応援してる」御曹司、友達の試合で初めて彼女への嫉妬と友情を同時に抱えました 待ち受けの写真を相沢君に見られた事件から二日後、今度はその相沢君本人が、昼休みに妙に落ち着かない顔で私たちのところへやってきた。 普段ならパンを片手に「篠宮、数学のプリント見せて」とか、「高梨、今日店に余ったケーキない?」とか、本人なりには遠慮しているつもりなのだろうけれど、だいたい遠慮のないことを言ってくるのに、今日は私たちの机の前まで来てからも、なぜかすぐには口を開かない。「相沢君、どうしたの?」 私が聞くと、相沢君は後頭部を軽く掻いた。「今週の日曜、暇?」「日曜日?」「うん。午後なんだけど」 横にいた美咲がすぐ顔を上げる。「何、デートのお誘い?」「違うわ!」 相沢君の声が大きくなり、周囲の何人かがこちらを見る。「美咲、そういう冗談やめろ。篠宮がいるところで言うなよ」「何で篠宮君がいると駄目なの?」「何でって彼氏だろ」「俺は別に」 篠宮君が口を開く。「高梨が相沢と二人で出かけたいなら、まず理由を聞く」「篠宮君」 私は横を見る。「少しは嫉妬しないの?」「すると思う」「するんだ」「かなり」「そこは正直なんだね」「でも嫉妬したからって、行くなとは言わない」 相沢君が何とも言えない顔になった。「何で俺、誘いの内容言う前から二人の恋愛教育見せられてんの?」「相沢君が変な間を作るからでしょう」「俺のせい?」「で、何なの?」

  • 冴えない転校生を放っておけなかっただけなのに、正体は世界的財閥の御曹司でした   第72話 「篠宮、その待ち受け高梨じゃん」御曹司が隠していた恋人写真を、クラスメイトに見られました

    第72話 「篠宮、その待ち受け高梨じゃん」御曹司が隠していた恋人写真を、クラスメイトに見られました 篠宮君と公園で撮った写真が彼のスマートフォンのホーム画面になってから、私は翌朝の教室へ入る前に一つだけ念を押していた。「学校では、机の上に画面を出したまま置かないでね」「うん」「誰かにスマホ貸す時も気をつけて」「貸さないと思う」「絶対じゃないでしょう。写真撮ってって頼まれることもあるし、調べ物で画面見せることもあるし」「その時は一回ホームへ戻らないようにする」「そこまで作戦立てなくてもいいけど、とにかく私が恥ずかしいから」「わかった」「本当に?」「かなり気をつける」 篠宮君は真面目に頷いた。 私はそれで安心した。 付き合っていること自体は、もうクラスのみんなが知っている。 だから、私たちが二人で出かけていることを知られたって、別に問題はない。 手をつないだことも、たぶん何人かは想像しているだろう。 それでも「恋人同士で撮った写真を彼氏が待ち受けにしている」となると、私の中では明らかに一段階恥ずかしさが上がる。 篠宮君本人は、その違いが最初よくわかっていなかった。「付き合ってるって知ってるなら、写真見られても同じじゃない?」「全然違うよ」「何が?」「説明しろって言われると難しいけど」「じゃあ、秘密?」「秘密というより、見せたくないもの」「同じじゃない?」「違う」「難しい」 昨日だけで、このやり取りを二回した。 最終的には、「高梨が見せたくないなら、俺も見せない」で納得して

  • 冴えない転校生を放っておけなかっただけなのに、正体は世界的財閥の御曹司でした   第71話 「この写真、待ち受けにしてもいい?」冴えない転校生と初めて“恋人として”二人だけの写真を撮りました

    第71話 「この写真、待ち受けにしてもいい?」冴えない転校生と初めて“恋人として”二人だけの写真を撮りました 九条家で夕食を食べた翌週の月曜日、教室へ入った私は、自分の席に鞄を置くより先に、こちらへ歩いてくる篠宮君へ気づいた。 席替えをしてから毎朝のように続いている光景なので、もう驚きもしない。「おはよう、高梨」「おはよう。今日は自分の席に一回座った?」「座った」「本当に?」「鞄置いた」「それを座ったとは言わないよ」「でも一回戻った」「戻ってないじゃん」 私が笑うと、篠宮君も少し笑った。 以前なら、こういうどうでもいい会話を朝からするなんて考えられなかった。 転校してきたばかりの頃は、声をかければ必要最低限の返事しかしなかった人なのに、今は「鞄を置いたから自分の席に戻ったことになるか」という、どうでもよすぎる主張までしてくる。「それで?」「何が?」「朝から何か言いたそうな顔してる」「わかる?」「最近かなり」 篠宮君は一度だけ周囲を見た。 まだ登校している生徒は半分くらいで、教室はそれなりに騒がしい。「昨日の写真」「写真?」「クラスで撮ったやつ」「ああ」 正式なクラス写真とは別に、莉奈がスマートフォンで撮ってくれた集合写真だ。 私と篠宮君が偶然隣に並び、相沢君が前で半分変な顔をしている、かなり自然な一枚。「どうしたの?」「昨日、家で見てた」「うん」「それで」 篠宮君が少し言いにくそうにする。

  • 冴えない転校生を放っておけなかっただけなのに、正体は世界的財閥の御曹司でした   第70話 「今度は面接じゃなくて、夕飯を食べに来ないか」御曹司の父に二度目の招待をされました

    第70話 「今度は面接じゃなくて、夕飯を食べに来ないか」御曹司の父に二度目の招待をされました 三年次の類型選択について話した翌日の放課後、私は自分の机で鞄へ教科書を詰めながら、教室の後ろから近づいてくる足音に気づいていた。 席替えをしてからというもの、この足音にもだいぶ慣れた。「高梨」「今日は何?」「その聞き方、俺が毎日何か持ってくるみたい」「だいたい持ってくるでしょう。相談とか確認とかお願いとか」「今日は相談」「ほら」 私が笑うと、篠宮君も少し笑った。 ただ、いつもの軽い顔ではない。「何かあった?」「父上から」「隆臣さん?」 思わず声を落とす。 教室にはまだ何人か残っている。「うん。高梨を、また家に招きたいって」 手が止まった。「……また?」「嫌なら断っていい」「そこ最初に言うようになったね」「かなり大事だから」「それで、今度は何?」 前回、九条家へ正式に招かれた時はかなり緊張した。 隆臣さんから「息子を変えた人間を直接知りたい」と言われ、私は未来の嫁候補として評価されるつもりはないと条件をつけたうえで九条家へ行った。 三十三円ほどのシャープペンシルの話までした。 今思い返しても、あれは高校生の彼氏の家へ遊びに行ったというより、ほとんど面談だったと思う。「また質問されるの?」「違う」「家族会議?」「それも違う」「じゃあ何?」 篠宮君が少し言いにくそうにした。

  • 冴えない転校生を放っておけなかっただけなのに、正体は世界的財閥の御曹司でした   第69話 「同じクラスにしてくださいって、学校に頼まないでね」御曹司と三年生の文理選択を考えることになりました

    第69話 「同じクラスにしてくださいって、学校に頼まないでね」御曹司と三年生の文理選択を考えることになりました クラス写真を撮った翌週、今度は「来年も同じクラスでいられるかもしれない」という期待を、学校側があっさり壊しにきた。「三年次の類型選択について、今日から希望調査を始める。まだ最終決定じゃないが、大学進学を考えている者は受験科目にも関係するから、友達がこっちへ行くとか、好きな先生が担当しそうだとか、その程度の理由では決めるなよ」 朝のホームルームで佐伯先生が配ったプリントには、大きく「三年次履修類型予備調査」と書かれていた。 うちの学校では三年生になると、国語や地歴公民を厚く取る文系進学型、数学や理科の授業数が増える理系進学型、それに国公立受験などを想定して幅広い科目を残す総合型へ、ある程度クラス編成が分かれる。 完全に文系と理系だけで分断されるわけではないらしいが、選択する科目が違えば、当然同じホームルームになれる可能性も変わる。 つまり。「高梨」 後ろから声がした。 振り返る。 篠宮君が、ものすごく嫌そうな顔でプリントを持っていた。「まだ何も決まってないよ」「でも類型違ったら、クラス別になる可能性上がる」「そうだね」「昨日話したばっかり」「何を?」「来年も同じクラスがいいって」「学校は私たちの会話聞いて時間割作らないから」「……うん」 本気で残念そうだ。 少し笑いそうになったけれど、考えてみれば私も他人事ではない。 進路希望調査では「大学進学、学部未定」と書き、興味のある分野として経営、食、地域・まちづくりを挙げた。 ただ、「食」と一言で言っても幅が広い。 経営や商品企画

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status